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2013年6月16日 (日)

報告・非フランス革命的な改革「ニューイングランドから日本社会を見る」

52回草の実アカデミー講演会・美術批評家のアライ=ヒロユキさんによる「ニューイングランドから日本社会を見る」(13年6月15日)が終了しました。アメリカの北東部に位置するこの地は、ヴァージニアとともにイギリス人による植民地化の拠点にりなり、アメリカという国家の始まりの地とも言えますが、ふだん私が抱いているアメリカとだいぶ違う印象を受けました。

◇清涼感のある本

◇キーワードは「小さいこと」

◇フランス革命とアメリカ独立革命

◇ニューイングランドとヴァージニアの違い

◇3・11後、放射能について語らないNPO

◇当日のレジュメ

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◇清涼感のある本

 今回はアライさんの新著『ニューイングランド紀行 アメリカ東部・共生の道』(繊研新聞者発行・1600円+税)の刊行を記念したイベントでもあった。 ネット書店  セブンネット http://www.7netshopping.jp/

 e-hon http://www.e-hon.ne.jp/

 boox store http://boox.jp/

 honto http://honto.jp/

講演が始まる前にアライさんの持ち込んでもらった新著を見ると、青い表紙が涼しげで、昨日(615日)は暑かったので、なおさら清涼感が伝わってきた。

 ページをめくってみると、ニューイングランド地方の古民家・ハーブ園・職人・移民の歴史・・といろいろなものを撮影した写真がたくさん掲載されおり、見ているだけで気持ちがいいと思った。

 もちろん、ただ美しいだけでなく、そこには1620年に102名の清教徒が上陸してからの歴史、信仰、コミュニティ、伝統文化、移民、先住民にまつわるものなど、意味のある光景が映し出されている。休憩をはさんだ後半では、先住民や黒人の歴史を小小学校で教えていることなどにも話が及んだ。

 話を聞いてから購入しようと思ったが売り切れてしまったので、これから買おうと思う。

◇キーワードは「小さいこと」

 アライさんが映した写真をみながら訪れたところの歴史的背景や実施に見たものの感想を話していく。

 ハーブガーデン、エコヴィレッジ、家具職人、墓地、移民文化、キルト(パッチワーク)、バスケット(伝統工芸)・・。写真を見たり話を聞いてほっとしたのだが、どれにも共通しているのは「小」である。

 大きいことはいいことだ、物質文明、軍事文明、パワーポリティックスを驀進するアメリカ主流派とはかなり違う。小・小・小・・・・。

◇フランス革命とアメリカ独立革命

 印象的だったのは、フランスの政治思想家シャルル=アンリ・クレレル・ド・トクヴィル(18051859年)を引用して、「トクヴィルがフランス革命の帰結で見たものは、民主化という平準化がもたらした全体主義だった。彼はアメリカ革命とその子孫に全体主義とは真逆の分権的な民主主義、自治を見た」という。

 たしかにフランス革命は、強大な力によって、平準化し、標準化し、規格化し、システム化した。いまなら世界標準(グローバルスタンダード)という言葉や概念にも通じるかもしれない。

 力による一元管理で自由を与えようとしたともいえる。確かに旧体制に対抗する新体制を全面的に掲げ、その革命体制を守るために徴兵制を確立し、国家の概念を強めていたフランス革命。言語的にもフランス語を徹底させ、国民教育の礎としている。

 それに対してアライさんは、生活のなかの民主主義、地域主義、自治意識とそれを支える仕組みを評価している。そのひとつがタウンミーティングだ。町単位で住民が集まって話し合う。この様子を見てトクヴィルは分権的民主主義と捉えているのだ。

◇ニューイングランドとヴァージニアの違い

 イギリスの植民拠点は2か所あり、ひとつは最初に移民を始めたヴァージニア。少し遅れてニューイングランドである。その二つの両極端そさしてアライさんは言った。

「ニューイングランドは小規模独立農業。山も多く、ヴァージニアのように大規模農場は作りにくい。独立した小さな農家の集まりなので、奴隷もいらないし、野菜や起訴食料品またお上に従わなくても済む。もちろん英国への依存度も低い。

 さらに、清教徒的な信仰により、質素な生活だし、牧師のような特権を認めない平等性もある。

 それに対してヴァージニアは、タバコなどの換金作物を生産した。大規模で大きな土地と人員を必要として、集団でことを行なう。そこから奴隷を使うことになる。ただし、奴隷を所有していたのはほんの一握りの大地主だけだった。

 二つの違いはやがて南北戦争[18601864]に繋がっていく」

 話を聞いていて、この南北の違いはいまだにアメリカの両面を映し出しているように思えた。

◇3・11後、放射能について語らないNPO

 3・11後についてもアライさん話したので、ほんの少しだけ紹介する。阪神大震災後に日本ではNPOが激増する。3・11の東日本大震災でも活躍するがかならずしもうまくは適用できていない。

 そのなかで、震災後1年余りたったときに、復興支援を支援してきたNPOがあつまったアートプロジェクトの展覧会があったが、放射能について言及したNPOはゼロだったという。

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【当日のレジュメ】

「ニューイングランドから日本社会を見る」

615日 文京区アカデミー音羽 学習室A 草の実アカデミー

講演/アライ=ヒロユキ 《美術・文化社会批評》

★アライ=ヒロユキ『ニューイングランド紀行 アメリカ東部・共生の道』(繊研新聞社)

Story 1 知られざるアメリカ東部、ニューイングランド

Story 2 旧と新が共存する地

〈ニューイングランド6州〉

マサチューセッツ州/ボストン周辺、コンコード、ローウェル、ナンタケット島、プリマス、

ピッツフィールドほか

メイン州/オーガンクィット、サウスバーウィックほか

ニューハンプシャー州/ポーツマスほか

バーモント州/バーリントン、ベニントンほか

ロードアイランド州/プロビデンスほか

コネチカット州/ハートフォード、ウェザーズフィールド

+ニューヨーク州/NYC、イサカ、イロコイ連邦・セネカ邦

ペンシルバニア州/ランカスター郡・アーミッシュ

Story 3 多様性の実践と伝統

ニューイングランドに見られる多様性。行動とともにある民主主義、共生の思想。人々をつなぐ身近なアート/表現の居場所。

●ダン・デウォルト(家具職人・ミュージシャン・活動家)

 〈イラク戦争決議のバーモント・ネットワーク〉、〈売国奴の政府に対する愛国者の返答〉

「このままではファシズムが起きると思う。それを防ぐため、私たち市民はしっかりとした政治意識を持ち、真の参加型民主主義を作っておく必要がある。…それは地域で助け合うネットワークに根ざしたほうがいいと思う」。

●キルト 人と人をつないでいく、女たちの表現

●セブン・アローズ・ファーム ハーブという気づきの場

●ナンタケット・バスケット グローバリゼーションが生んだ伝統工芸

●カーボベルデ移民 異種混交から生まれる文化

Story 4 この風土に抱かれたもの

●黒人解放の史跡 ブラック・ヘリテージ・トレイル

●ウェザーズフィールド 古都が守り抜いてきた風土、負の歴史の検証

●シェルバーン美術館 知られざる、アメリカのフォークアート

Story 5 調和の風景から学んだもの

●グランマ・モーゼス 正統からはずれたことの意味

●レイチェル・カーソン 反公害を縦貫する祈り

Story 6 プロテスタントが追い求めたシンプル&ナチュラルの暮らし

キリスト教の民主化/平準化から生まれたプロテスタントの理想郷づくり。

小規模自営農&清貧勤勉啓発→リベラルな風土を醸成(南部との違い)

反文明の共同体:シェーカー、アーミッシュ

Story 7 超絶主義を訪ねて

超絶主義:宗教の枠を超え、自然の中に聖性を見出したアクティヴィストの運動。

●ソロー:自然文学のパイオニア。革命権の主張。

●超絶主義者の2つのコミューン:フルートランヅ、ブルックファーム

●自然と生活を取り入れた環境音楽の礎

●現代のコミューン、エコビレッジの挑戦 イサカ・エコビレッジ

Story 8 映像作品と犬たち

Story 9 アメリカの影

「新天地」「西部」開拓の影で行われた罪業の膨大さとそれを直視、告発する勇気。

●本質主義の回避とポストコロニアル:ネイティブメリカンと黒人のアート最前線

●独立国イロコイ連邦の英知(大いなる平和の法)と〈ホワイトコーン・プロジェクト〉

ピーター・ジェミソン「問題の解決は力でない手段で解決すべきだ。そうでないと、いい結果をもたらさない。これには長い時間がかかると思う」。

Story 10 19世紀という時代の転換点

産業の高度化、流通と情報の稠密化、金融資本の中央化。20世紀の覇権国家のための準備期間。そして、これに抵抗した人々、生活文化。

●マーク・トウェイン 辛辣な批評家、同調性による「悪の凡庸さ」を予見

●サラ・オーン・ジュエット 老い/単身者/自然/同性愛(ロマンティックな関係)

Story 11 トクヴィルがニューイングランドに見たもの

トクヴィルがフランス革命の帰結で見たものは、民主化という平準化がもたらした全体主義だった。彼はアメリカ革命とその子孫に全体主義とは真逆の分権的な民主主義、自治を見た。

●トクヴィルが注目したタウンミーティング

●ニューイングランドを参考した、マンフォードの都市計画

●自治に不可欠な政治性→タウンミーティングの意味

Story 12 つぶし合わず、生きるための英知

3.11以降の日本の公共性のあり方

東浩紀「公民的な自覚をもたない人々をどれだけ抱えられるか、そちらから社会設計を考えるしかない、というのが僕の前提なんです。……ひとりひとりが欲望だけで動いていても、結果としてどう公共性が発生するか、ということを考えています」。  「東浩紀×大塚英志『公共性』の『工学化』は可能か」、『新現実』5号、2008

ハーバーマス 「政治的に機能する公共圏」→結社(アソシエーション)→NPOの発達

3.11後の日本 「政治的に機能しない公共圏」→言論機関とNPO活動の不全

現代アートの表現の場で何が起きているか

「社会というものは、いつでも、その成員がたった一つの意見と一つの利害しかもたないような、単一の巨大家族の成員であるかのように振舞うよう要求するからである。…近代の平等は、このような画一主義にもとづいており、すべての点で、古代、とりわけギリシアの都市国家の平等と異なっている」。

ハンナ・アレント『人間の条件』筑摩書房

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